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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)160号 判決 1997年4月16日

アメリカ合衆国カリフォルニア州94607オークランド、イザベラ・ストリート830

原告

ケビン ピー パーカー(パーカー ケビン・ピー)

訴訟代理人弁護士

山崎行造

伊藤嘉奈子

松波明博

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

八巻惺

花岡明子

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成5年審判第9037号事件について、平成6年2月3日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年5月23日、アメリカ合衆国において1983年6月1日にした特許出願に基づく優先権を主張して、名称を「接着性合綴ストリップ」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭59-502297号)が、平成5年1月14日に拒絶査定を受けたので、同年5月10日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成5年審判第9037号事件として審理したうえ、平成6年2月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月7日、原告に送達された。

2  本願の特許請求の範囲第1項に記載された発明の要旨

紙葉を一体に合綴する合綴ストリップにおいて、

変形可能な材料からなる細長い台材、

熱活性化された比較的低粘性の接着剤を含み、前記台材の縦軸線に沿って前記台材上に配置される第1接着バンド、及び

前記第1接着バンドの両側で前記台材上に配置され、比較的高粘性の接着剤を含み、厚さが少なくとも前記第1接着バンドの厚さの1/2である第2接着バンドと第3接着バンド、

を含有する合綴ストリップ。

(審決において、本願の第1発明とされたもの。以下、単に「本願発明」という。)

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭56-60293号公報(以下「引用例1」といい、その発明を「引用例発明1」という。)及び特公昭53-16735号公報(以下「引用例2」といい、その発明を「引用例発明2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨及び引用例の記載事項、本願発明と引用例発明2との一致点、相違点の各認定は認める。相違点1の判断は争わないが、相違点2の判断を争う。

審決は、本願発明と引用例発明2との相違点2の判断を誤り(取消事由)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  審決は、本願発明と引用例発明2の相違点2として、「本願の第1発明が、第2接着バンドと第3接着バンドの厚さを、少くとも第1接着バンドの厚さの1/2としているのに対して、第2引用例の接着剤ストライプ53の厚さと接着剤ストライプ52の厚さはそのような構成を有しない点」(審決書6頁10~15行)を挙げ、「第1引用例には、本願の第1発明の第2、第3接着バンドおよび第1接着バンドにそれぞれ対応し、かつ厚さの略等しい表紙接着剤条片23、24および背板接着剤条片21が記載されているから、相違点2の本願の第1発明の構成は、第1引用例から当業者が容易に思いつくものである。そして、本願の第1発明の作用効果は、各引用例から予測しうる程度のものである。」(同8頁2~10行)と判断しているが、誤りである。

まず、引用例発明2にあっては、厚い接着剤ストライプ52と薄い接着剤ストライプ53との厚さの比は、3倍以上であり、かかる厚さの比は、本願発明における、後者が前者の少なくとも1/2、逆にいえば前者が後者の2倍以下でなければならないのと比較すると、その差は歴然としている。

また、引用例発明2にあっては、厚い接着剤ストライプのうちシートスタックの端面に接する部分が低粘着性熱活性接着剤から成るので、比較的低い加熱温度で容易に溶融し、流動化してシートスタックの端面に接する部分から薄い接着剤ストライプの上に流れ出る傾向が強い。そのために、厚い接着剤ストライプが薄くなるとともに、シートスタックの側縁部に接着すべき薄い接着剤ストライプがシートスタックの側縁部に接着することを妨害する。すなわち、合綴作業の間にシートスタックの側縁部は基材に溶融した高粘着性熱活性接着剤により固定されなければならないが、もし溶融した高粘着性熱活性接着剤が溶融した低粘着性熱活性接着剤により覆われると、溶融した高粘着性熱活性接着剤が合綴作業中に基材にシートスタックの側縁部を固定する効果が阻害されることになる。

さらに、溶融した高粘性の接着剤の溶融したバンドの上に溶融した低粘性の接着剤が存在すると、合綴行程の間に基材がシートスタック側縁部に接着することが妨げられる。したがって、シートスタックの端縁部のまわりに折り曲げられる基材は、合綴行程において接着剤がまだ溶融している間に、折り曲げられる前の形に戻ろうとし、シートスタックから剥離する傾向を示す。その結果、シートスタックがよく綴じられない。このため、引用例発明2のストリップにおいては、中央部接着剤として溶融時の粘性が必要以上に高いものを使用して、それにより中央部接着剤が外側の接着バンドの上を超えて流れ出すことを防止しなければならない。しかしながら、他方において、このような粘性の高い中央部接着剤を用いると、それがシートスタックの各頁を綴じ合わせる性能を低下させることになる。

これに対して、本願発明は、第2及び第3接着バンドの厚さを第1接着バンドの厚さの少なくとも1/2としたので、第2、第3接着バンドの表面が第1接着バンドの流出の影響を受けにくいのである。

さらに、引用例発明2の接着ストライプは、本願明細書にも述べられている従来技術の欠点、すなわち、比較的厚い接着バンドと比較的薄い接着バンド間の二つの接合部分にしばしば隆起部が生じ、これによって完成した冊子の外見が損なわれ、この隆起は、合体すべき紙葉の厚みが中央バンドの幅よりも実質的に薄い場合に著しく露呈するとの欠点を有する。

これに対し、本願発明にあっては、第2及び第3接着バンド(外側の接着バンド)は中央の第1接着バンドに比較して十分な厚さを有するので、中央の第1接着バンドはカバーシートの綴じ合わせ作用を妨害することがない。これは綴じ合わされるシートスタックの厚さが薄く、中央の第1接着バンドがシートスタックの端縁部のまわりに折り曲げられるときにも同様である。したがって、合綴加圧板すなわち顎22及び底板24は、基材の側部の全てがシートスタックに対して押圧されうるように位置することができ、第2及び第3接着バンド及びシートスタックの端縁部のまわりに折り曲げられる中央の第1接着バンドの部分の全てがカバーシートに押圧され、その結果、隆起部ないし段落部の形成が妨げられ、奇麗な合綴が可能となるものである。

以上のように、本願発明は、引用例発明2や本願明細書に従来技術として記載されている米国特許第3847718号明細書に開示されている第2、第3接着バンドよりも、第2、第3接着バンドの厚さを厚くすることによって優れた作用効果を有するものであり、この第2、第3接着バンドの厚さを厚くすることは、従来からの技術常識に反するものであって、本願発明は引用例発明2とは技術思想を異にする。

2  この従来技術と同じく、引用例発明1の表紙接着剤条片23、24は、背板接着剤条片21と同一組成で同一厚さのものであり、引用例1(甲第7号証)に、「1対の接着剤条片がスペーサ(間隔保持部材)として作用する。このようにして表紙上にある熱溶融接着剤条片がスペーサとして作用し、シートは背板上の接着剤層上に揃えたシートが切り込みに落込むことなく、互に一様に揃えることができる」(同号証5欄4~9行)と記載されているように、スペーサとしての作用効果を奏するにすぎない。

これに対し、本願発明の第1接着バンドは「熱活性化された比較的低粘性の接着剤を含み」、第2、第3の接着バンドは「比較的高粘性の接着剤を含み、厚さが少なくとも前記第1接着バンドの厚さの1/2である」のであって、これにより、本願発明の作用効果の一つとして、「比較的厚いカバー接着書(16)が低粘性の水状の溶融した背接着剤が、接着過程の中でカバー接着帯を越えて流れるのを阻止」(甲第2号証の1、明細書14頁23~25行)することができる。すなわち、第2、第3接着バンドであるカバー接着帯(16)が比較的厚いので、第1接着バンドの水のように溶融した低粘性の背接着剤がカバー接着帯を乗り越えて流れて行くのを阻止することができるのである。

このような本願発明における作用効果の必要性は、本願発明においては、第1接着バンドの接着剤が低粘性であり第2、第3接着バンドの接着剤が高粘性であることから生ずるのであって、同じ粘性の接着剤条片21、23、24を使用する引用例発明1の場合には、仮に第1接着バンドの接着剤が第2、第3接着バンドを乗り越えて流れたとしても、全く問題にならない。すなわち、引用例発明1の表紙接着剤条片23、24及び背板接着剤条片21は、本願発明の第2、第3接着バンド及び第1接着バンドにそれぞれ対応するものではなく、引用例発明1には、これらの接着剤条片の間に粘着性や厚さに相違を付与するという思想を導き出す動機は存在せず、本願発明の作用効果は、引用例発明1から容易に予測できるものではない。

3  以上のとおり、引用例発明2は本願発明とその発明思想を異にし、引用例発明1は、一様な厚さのスペーサを有する従来技術以外の何ものでもないのであるから、引用例発明2に引用例発明1を組み合わせるという発想はそもそも生じないし、各引用例から本願発明の作用効果を容易に予測できるものではない。

審決の相違点2の判断は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1  引用例発明1の表紙接着剤条片23、24は確かに原告主張のようにスペーサとしての機能を有するものであるが、スペーサのほかに、表紙接着剤条片23、24を加熱溶融することによって、表表紙18、裏表紙19と各外側のシート22aを接着させることができるものである(甲第7号証、6欄3~6行、10欄末行~11欄5行)。そして、本願発明において、第2、第3接着バンドの各厚さを少くとも第1接着バンドの厚さの1/2とするということは、第2、第3接着バンドの各厚さが第1接着バンドの厚さと略同じものが含まれるところ、引用例発明1においても、表紙接着剤条片23、24と背板接着剤条片21との厚さが略等しいのであるから、引用例1の表紙接着剤条片23、24及び背板接着剤条片21が本願発明の第2、第3接着バンド及び第1接着バンドにそれぞれ対応することは、明らかである。

2  引用例2(甲第8号証)には、多数のシートを一体にシートスタック20する綴じ込み部材50を、変形可能な材料からなる細長い基材51と、基材51の縦軸線に沿って配置された低粘着性熱活性接着剤からなる比較的厚い接着剤ストライプ52と、接着剤ストライプ52の両側で、基材51上に配置された高粘着性熱活性接着剤からなる比較的薄い接着剤ストライプ53とで形成することによって、「ストリツプ状の綴じ込み部材50はその中心部(第5図および第6図)に沿つて加熱せられ少なくとも低粘着性接着剤の部分がシートスタツク20の端面に接着せられる。」(同号証6欄37~40行)、「綴じ込み部材は更にスタツクの最も外側のシート(第5図および第6図参照)に接触し加熱せられ少なくとも高粘着性接着剤53の部分がその最も外側のシートに接着するようにせられる。次にスタツクとその綴じ込み部材(第6図参照)との間に圧力が加えられ、直ちに綴じ込み部材とスタツクの外側のシートとに接着する高粘着性接着剤が接着される」(同7欄7~14行)と記載されている。これは要するに、高粘着性熱活性接着剤が、溶融して流れ出した低粘着性熱活性接着剤により覆われない個所があることを示している。

一方、引用例発明1の表表紙18、裏表紙19には所要の厚さの表紙接着剤条片23、24が接着されており、この条片23、24が溶融した背板接着剤条片21の流出を阻止するように作用することは自明のことである。

また、引用例発明1の背板接着剤条片21と表紙接着剤条片23、24の厚さが略等しいから、「背接着剤とカバー接着剤の2カ所の接合部分の見苦しい隆起部が生じない」ものである。

したがって、本願発明の作用効果が、各引用例から予測できる程度のものであるとした審決の判断は正当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  本願発明と引用例発明2とが、審決認定のとおり、「紙葉を一体に合綴する合綴ストリップにおいて、変形可能な材料からなる細長い台材、熱活性化された比較的低粘性の接着剤を含み、前記台材の縦軸線に沿って配置される第1接着バンド、及び前記第1接着バンドの両側で前記台材上に配置され、比較的高粘性の接着剤を含む第2接着バンドと第3接着バンド、を含有する合綴ストリップ」の点で一致すること(審決書5頁14行~6頁2行)は、当事者間に争いがない。

本願発明と引用例発明2との相違点(2)すなわち「本願の第1発明が、第2接着バンドと第3接着バンドの厚さを、少くとも第1接着バンドの厚さの1/2としているのに対して、第2引用例の接着剤ストライプ53の厚さと接着剤ストライプ52の厚さはそのような構成を有しない点」(同6頁10~15行)にっき、原告は、この点を本願発明と引用例発明2を含む従来技術との差異として強調して主張するが、本願発明において、第2、第3接着バンドの各厚さが「少なくとも第1接着バンドの厚さの1/2である」と規定されている技術的意味は、その文言どおり、少なくとも第1接着バンドの厚さの1/2であればよく、第1接着バンドの厚さと略同じ厚さのものを排除する趣旨でないことは、本願明細書(甲第2号証の1、第3、第5号証)の「バンド(16)の平均厚さは、少なくとも背接着帯(14)の厚さの、1/2であるのがよいが、好ましくはその平均厚さは背接着帯とほぼ同じ厚さである。」(甲第2号証の1、明細書9頁6~9行)との記載からも明らかである。

そして、本願発明の第1接着バンドに該当する引用例発明1の背板接着剤条片21、本願発明の第2、第3接着バンドに該当する引用例発明1の表紙接着剤条片23、24が、審決認定のとおり、いずれもその厚さを略等しくしていること(審決書3頁17~18行)は、当事者間に争いがないから、本願発明と引用例発明1とは、この点において差異はない。

また、引用例発明1の表紙接着剤条片(スペーサ)23、24が原告主張のようにスペーサとしての機能を有することは当事者間に争いがないが、引用例1(甲第7号証)には、「本製本方式の利用者はシートを並べて揃える等の手段によつて整列させ、その端縁を背板の接着剤条片上に置き、ホツトプレート(加熱板)によつて背板の熱溶融接着層を溶融させてシートの端縁を背板に接着せしめる。必要に応じ表紙の内側に設けてある接着剤の条片も加熱し、外側のシートの外側と表裏表紙の内側との間を熱溶融接着剤で接着させても良い。」(同号証5欄19行~6欄6行)、「熱溶融性接着剤よりなる表紙スペーサ23、24を外側のシート22a、22aに接着させたいときにはホツトプレート26に第2工程の動作を行わせ、接着剤条片としてある表紙スペーサ23、24に熱を加え、第5図に23a、24aで示す如く溶着させれば良い。」(同10欄末行~11欄5行)との記載があり、これによれば、引用例発明1においても、表紙接着剤条片23、24が接着バンドとしての機能を有することが明らかである。

そうすると、引用例発明1の背板接着剤条片21と表紙接着剤条片23、24が本願発明の第1接着バンドと第2、第3接着バンドにそれぞれ対応するとした審決の判断は相当である。

もっとも、引用例発明1における背板接着剤条片21と表紙接着剤条片23、24の接着剤はいずれも同じ粘性の熱溶融性接着剤であって、本願発明におけるように、第1接着バンド(背板接着剤条片)を比較的低粘性のものとし、第2、第3接着バンド(表紙接着剤条片)を比較的高粘性のものとするものではないが、本願発明のこの接着剤の粘性に差異を設ける構成は、前示のとおり、引用例発明2の構成として、すでに公知の構成である。

そうすると、この公知の引用例発明2に、引用例発明1の各接着剤条片の厚さが略同じの構成を採用することは、当業者が容易に想到できることといわなければならず、相違点(2)についての審決の判断(審決書7頁6行~8頁8行)に誤りはない。

2  原告は、本願発明においては、第2、第3接着バンドが比較的厚いので、水のように溶融した低粘性の第1接着バンドが第2、第3接着バンドを乗り越えて流れて行くのを阻止する作用効果を有するものであるところ、同じ粘性の接着剤条片21、23、24を使用する引用例発明1の場合には、このようなことは全く問題にならないから、本願発明の作用効果は、引用例発明1から容易に思いつくものではない旨主張する。

確かに、引用例1には表紙接着剤条片23、24が接着剤の流出を防止するという作用・機能について明示する記載はない。

しかし、引用例発明1において、表紙接着剤条片23、24を単なるスペーサとして使用する場合のほか、紙シート12を背板接着剤条片21へ接着した後の工程として、表紙接着剤条片23、24を加熱し、外側のシートと表裏の表紙の内側との間を熱溶融接着剤で接着させることもできることは前示のとおりであり、この場合に、背板に紙シートを接着させる溶融工程中に溶融接着剤が流出しても、表紙接着剤条片は背板接着剤条片と略同じ厚さを維持して外側のシートと接触しているのであるから、表紙接着剤条片23、24に背板接着剤条片21と略同じ厚みを持たせるという構成により、溶融接着剤の流出を防止できることは明らかである。この場合、接着剤条片21、23、24に同じ粘性のものが使用されることは、上記認定の妨げとなるものではない。

原告は、また、本願発明と引用例発明2との作用効果の相違を強調して、本願発明の作用効果は、引用例発明2から容易に予測できるものではない旨主張する。

しかし、原告が本願発明と引用例発明2の作用効果の差異として主張する、「水のように溶融した低粘性の背接着剤がカバー接着帯を乗り越えて流れて行くのを阻止する」ことは、本願発明において、第2、第3接着バンドの厚さを少なくとも第1接着バンドの厚さの1/2としたことによる作用効果であることは、その主張からみても明らかであるところ、引用例発明2に引用例発明1の表紙接着剤条片23、24に背板接着剤条片21と略同じ厚みを持たせるという構成を採用することが容易であることは前示のとおりであり、その場合に、本願発明の上記効果を奏することは、当業者が容易に予測できることと認められる。

また、「背接着剤とカバー接着剤の2カ所の接合部分の見苦しい隆起部が生じない」こと等、原告が主張するその他の作用効果も、本願発明において、第2、第3接着バンドの厚さを少なくとも第1接着バンドの厚さの1/2としたことによる作用効果であることも明らかであり、したがって、引用例発明2に引用例発明1の構成を適用することによって得られることも自明である。

そうすると、「本願の第1発明の作用効果は、各引用例から予測しうる程度のものである。」(審決書8頁9~10行)とした審決の判断に誤りはない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 清水節 裁判官芝田俊文は、転官のため、署名捺印することができない。 裁判長裁判官 牧野利秋)

平成5年審判第9037号

審決

アメリカ合衆国カリフォルニア州94607オークランド、イザベラ・ストリート 830

請求人 バーカー ケビン・ピー

東京都千代田区永田町1丁目11番28号 相互永田町ビルデイング8階 山崎法律特許事務所

代理人弁理士 山崎行造

昭和59年特許願第502297号「接着性合綴ストリップ」拒絶査定に対する審判事件(昭和59年正2月6日国際公開WO84/04726、昭和60年9月12日国内公表特許出願公表昭60-501498号)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ.手続の経緯、本願発明の要旨

本願は、1984年5月23日(優先権主張1983年6月1日)を国際出願日とする出願であって、その発明の要旨は、平成4年11月9日付け手続補正書で補正された明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲の第1項および第10項に記載されたとおりの「合綴ストリップ」にあるものと認められるところ、その第1項に記載された発明(以下、第1発明という)は次のとおりである。

「紙葉を一体に合綴する合綴ストリップにおいて、

変形可能な材料からなる細長い台材、

熱活性化された比絞的低粘性の接着剤を含み、前記台材の縦軸線に沿って前記台材上に配置される第1接着バンド、及び

前記第1接着バンドの両側で前記台材上に配置され、比較的高粘性の接着剤を含み、厚さが少なくとも前記第1接着バンドの厚さの1/2である第2接着バンドと第3接着バンド、を含有する合綴ストリップ。」

Ⅱ.引用例

これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭56-60293号公報(以下、第1引用例という)には、次の事項が図面とともに記載されている。

「背板17と、この背板17に表表紙18と裏表紙19を一体に連結し、背板17の内側面には熱溶融性接着剤からなる背板接着剤条片21を被着し、表表紙18と裏表紙19の内側面には、前記条片21とわずかな間隔をおいて熱溶融性接着剤からなる表紙接着剤条片23、24を被着し、前記条片21を加熱溶融することによって束になった紙シートの端部を背板17に接着し、前記条片23、24を加熱溶融して両表紙18、19の内側を外側のシート22a、22aに接着させ、かつ各条片21、23、24の厚さを略等しくした本表紙構造」

同じく引用された特公昭53-16735号公報(以下、第2引用例という)には、次の事項が図面とともに記載されている。

「多数のシートを一体にシートスタック20するストリップ状の綴じ込み部材50において、この綴じ込み部材50を、変形可能な材料からなる細長い基材51と、基材51の縦軸線に沿って配置された低粘着性熱活性接着剤からなる比較的厚い接着剤ストライプ52と、接着剤ストライプ52の両側で、基材51上に配置された高粘着性熱活性接着剤からなる比較的薄い接着剤ストライプ53とで形成し、低粘着性熱活性接着剤からなる接着剤ストライプ52を加熱することによって接着剤がシートスタックの端面に接着するようにし、高粘着性熱活性接着剤からなる接着剤ストライプ53を加熱することによって接着剤がシートスタックの一番外側のシートの縁部に接着するようにしたストリップ状の綴じ込み部材」

Ⅲ.引用例との対比

本願の第1発明と第2引用例のものとを対比するに、第2引用例の、多数のシートを一体にシートスタック20するストリップ状の綴じ込み部材50は、本願の第1発明の、紙葉を一体に合綴する合綴ストリップに相当し、同じく第2引用例の細長い基材51は、本願の第1発明の細長い台材に相当し、同じく第2引用例の、基材51の縦軸線に沿って配置された低粘着性熱活性接着剤からなる接着剤ストライプ52は、本願の第1発明の、熱活性化された比較的低粘性の接着剤を含み、台材の縦軸線に沿って配置される第1接着バンドに相当し、同じく第2引用例の、接着剤ストライプ52の両側で基材51上に配置された高粘着性熱活性接着剤からなる接着剤ストライプ53は、本願の第1発明の、第1接着バンドの両側で台材上に配置され、比較的高粘性の接着剤を含む第2接着バンドと第3接着バンドに相当するから、両者は、紙葉を一体に合綴する合綴ストリップにおいて、変形可能な材料からなる細長い台材、熱活性化された比較的低粘性の接着剤を含み、前記台材の縦軸線に沿って配置される第1接着バンド、及び前記第1接着バンドの両側で前記台材上に配置され、比較的高粘性の接着剤を含む第2接着バンドと第3接着バンド、を含有する合綴ストリップ、の点で一致しており、次の点で相違している。

1.第1接着バンド(第2引用例では、低粘着性熱活性接着剤からなる接着剤ストライプ52)が、本願の第1発明では台材上に配置されているのに対して、第2引用例では高粘着性熱活性接着剤からなる接着剤ストライプ53を介して基材51上に配置されている点。

2.本願の第1発明が、第2接着バンドと第3接着バンドの厚さを、少くとも第1接着バンドの厚さの1/2としているのに対して、第2引用例の接着剤ストライプ53の厚さと接着剤ストライプ52の厚さはそのような構成を有しない点。

Ⅳ.当審の判断

そこで、これら相違点について検討する。

相違点1について

背板17の内側面に、熱溶融性接着剤からなる背板接着剤条片21を直接被着し、この条片21を加熱溶融することによって束になった紙シートの端部と背坂17に接着するものが第1引用例に記載されており、本願の第1発明が、第1接着バンドを台材上に配置した点は、第1引用例から当業者が容易に思いつくことである。

相違点2について

第1接着バンドの厚さと、第2、第3接着バンドの厚さについて、本願明細書第9頁6行~11行には、「第2図で文字Bで指定されているバンド16の平均厚さは、少なくとも背接着帯14の厚さの1/2であるのがよいか、好ましくはその平均厚さは背接着帯とほぼ同じ厚さである。従ってもし背接着帯の厚さが0.40mmであるとすると、カバー接着帯の厚さは少なくとも約0.20mmでなければならず、好ましくは少なくとも約0.40mmである。」と記載されていることから、本願の第1発明が、第2接着バンドと第3接着バンドの厚さを、少くとも第1接着バンドの厚さの1/2とするということは、第2接着バンドと第3接着バンドの厚さが、第1接着バンドの厚さと略同じものを含むものである。

ところで、第1引用例には、本願の第1発明の第2、第3接着バンドおよび第1接着バンドにそれぞれ対応し、かつ厚さの略等しい表紙接着剤条片23、24および背板接着剤条片21が記載されているから、相違点2の本願の第1発明の構成は、第1引用例から当業者が容易に思いつくものである。

そして、本願の第1発明の作用効果は、各引用例から予測しうる程度のものである。

Ⅴ.むすび

したがって、本願の第1発明は、各引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年2月3日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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